個人事業主のふるさと納税の上限額
計算ロジックについて解説していきます。計算に必要なもの
個人事業主がふるさと納税の控除限度額を計算するとき、必要となるのが前年の「確定申告書の控え」と「住民税決定通知書」です。「確定申告書の控え」は課税所得額を、「住民税決定通知書」は住民税の所得割額を確認するのに使います。
このときに注意したいのが住民税の所得割額です。都道府県民税と市町村民税を合算した金額を確認するようにしましょう。
計算方法
課税所得額と住民税の所得割額がわかれば、以下の表にのっとって、限度額を計算していきます。
課税所得額 | 計算式 |
---|---|
195万円以下 | 住民税の所得割額×23.559%+2,000円 |
195万円超330万円以下 | 住民税の所得割額×25.066%+2,000円 |
330万円超695万円以下 | 住民税の所得割額×28.744%+2,000円 |
695万円超900万円以下 | 住民税の所得割額×30.068%+2,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 住民税の所得割額×35.520%+2,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 住民税の所得割額×40.683%+2,000円 |
4,000万円超 | 住民税の所得割額×45.398%+2,000円 |
ただしこの表は、社会保険料控除(国民健康保険料や介護保険料)など、各種控除が考慮されていないため、あくまでも目安と考えてください。
個人事業主のふるさと納税の控除額確認方法
どれだけの控除が受けられるかの計算方法を紹介します。
所得税の計算方法
所得税の控除(還付)額は「(ふるさと納税額-2,000円)×所得税の税率」で求められます。
所得税は累進課税制度ですので、所得が上がるほど税率も大きくなる仕組みです。税率は5%から45%までの7段階になっており、たとえば課税所得が700万円の場合は23%となっています(※)。
この課税所得700万円の個人事業主が5万円分のふるさと納税をおこなったときの計算式は、「(5万円-2,000円)×23%」です。その結果、所得税から11,040円が還付されるとわかります。
気をつけたいのは、還付金額には上限があることです。所得税の還付は、総所得額の40%までです。ふるさと納税をすればするほど還付金が増えるわけではないことを、覚えておいてください。
※令和19年までは、通常の所得税に加えて、復興特別所得税(原則として所得税額の2.1%)が加わります。
住民税の計算方法
住民税の控除額を計算するときは、基本分と特例分、ふたつの控除額をそれぞれ計算する必要があります。
住民税【基本分】の控除額
基本分の控除額は「(ふるさと納税額-2,000円)×10%」で計算されます。たとえば、先ほどと同じく、ふるさと納税額が5万円の場合は「(5万円-2,000円)×10%」で、控除額は4,800円とわかります。
住民税におけるふるさと納税額の控除対象にも制限があり、総所得額の30%までとなっているので注意しましょう。
住民税【特例分】の控除額
特例分は、住民税の所得割額の2割を超えないときには、「(ふるさと納税額-2,000円)×(100%-10%-所得税の税率)」で控除額が計算されます。
計算式中の「10%」は基本分の税率を指します。また、「所得税の税率」は、住民税の課税所得額から配偶者控除や扶養控除といった「人」にまつわる控除を差し引いた金額です。そのため、所得税の還付額を計算するときの税率とは異なる場合もあります。
住民税の所得割額の2割を超えると、特例分の計算式が「(住民税所得割額)×20%」に変わります。この場合、ふるさと納税の実質的な自己負担額が2,000円を超えてしまうので注意が必要です。
このように、住民税の控除額を計算するのは所得税の還付額よりやや複雑です。正確に確認したいときには、最寄りの市区町村に問い合わせるのがおすすめです。
個人事業主がふるさと納税をする場合の確定申告
ふるさと納税をする・しないに関わらず、個人事業主は確定申告をすることになります。ふるさと納税をしたからといって、申告の方法が難しくなることはないのでご安心ください。
まず、寄付した自治体から郵送される「寄付受領証明書」を用意します。
確定申告は所得税を申告するためのものですが、寄付金控除に関しては、所得税と住民税のそれぞれについて記入箇所が設けられています。
所得税については、確定申告書第一表に、寄付受領証明書に記載された寄付額から2,000円を引いた金額を転記します。
住民税については、確定申告書第二表の2カ所に記入します。まず右中央の「寄付金控除」欄に寄付先の自治体と所在地、それぞれに対する寄付額を、そして右下の「寄付金控除の都道府県、市区町村分」欄にすべての寄付金の合計額を記入してください。
もし、ふるさと納税のほかにも寄付をおこなっている場合は、その金額も寄付金の合計額に加えるように注意しましょう。
あまりないことですが、自治体からの返礼品が時価50万円相当を超えてしまうと、一時所得として課税の対象になります。多額のふるさと納税を考えている方は気をつけましょう。
個人事業主がふるさと納税で注意すべき点
ワンストップ特例制度が利用できない
ワンストップ特例制度とは、確定申告をせずに寄付金控除を受けられるふるさと納税の制度です。確定申告の準備や手間がかからないため、通常、確定申告を必要としない会社員などに利用されています。
ワンストップ特例制度の利用にはいくつかのルールがあり、5自治体以上に寄付した人や確定申告をおこなう人は、制度の対象外です。
当初は確定申告の予定がなく、ワンストップ特例制度を利用していたとしても、結果として確定申告を行なった場合は無効になります。そのため、ワンストップ特例制度利用後に事業をスタートした方は注意が必要です。
控除上限額が一定ではない
寄付金控除はふるさと納税のメリットのひとつですが、収入によって限度額が変わります。先述のとおり、控除額の計算には所得税の税率が関係しており、所得税は収入に連動した累進課税制度だからです。
会社員とは違い、個人事業主は収入が不安定な方も珍しくありません。前年度は大きな収益を上げていても、ふるさと納税をした年度に収入が大きく下がったり上がったりすれば、控除上限額も大幅に変わる可能性があります。
個人事業主はふるさと納税をする年度の収益を見定めて、限度額の計算をするようにしましょう。寄付金額が控除額を上回るリスクを回避するためにも、目安とする控除額の8割程度に押さえておくと安心です。
税金を先払いすることになる
個人事業主にとって、事業の安定に節税は欠かせません。しかし、あまりに積極的にふるさと納税をおこなうと、キャッシュフローの悪化につながるリスクがあります。
ふるさと納税で寄付金控除の恩恵を受けられるのは、寄付の翌年です。目の前の経営状況を考えずに寄付を続けていると、一時的であってもお金が目減りしてしまうので慎重に行いましょう。
まとめ
個人事業主がふるさと納税を利用するメリットや確定申告の方法、注意点などをお伝えしてきました。
ふるさと納税の手続きが簡素化するワンストップ特例制度は使えないものの、個人事業主には確定申告が必須ですから、記入する項目が増えるだけでそれほどのデメリットはありません。
ただし、毎年の収入が変動しやすい方は控除限度額に気をつける、キャッシュフローの悪化を招かないなど、いくつか注意しておくといいでしょう。
もし心配なことがあれば、税理士などのプロに相談しておくとさらに安心です。
魅力的な返礼品もうれしいふるさと納税。楽しみながら活用してみてはいかがでしょうか。