そもそも「ふるさと納税」とは?
ふるさと納税は、個人が自治体へ寄付を行うことで、故郷やお世話になった自治体、応援したい自治体などの「ふるさと」の力になれる制度です。
ふるさと納税は、「地方創生」を実現する手段として期待されています。
首都圏へ人口が集中する中で地方を活性化させることを目指すものです。
地方から都会に移り住んだ人が住んでいる自治体に税金を納めても、生まれ育った故郷の自治体には税収が入りません。「教育やサービスを受けて育った故郷へ、自分の意思で納税できる制度があってもよいのでは」という問いから、ふるさと納税の制度がつくられました。
都道府県・市町村への「寄付」のようなもの
ふるさと納税は、「納税」という言葉が使われてはいますが、正確には自治体への「寄付」を行う制度です。
2021年9月時点で、ふるさと納税は、全国に1,788ある自治体のうち、東京都と高知県奈半里町を除く1,786の自治体で実施されています。
ふるさと納税をする自治体は、自分の意思で自由に選択可能です。
また、ふるさと納税では、寄付金額のうち2,000円を超える部分が、所得税・住民税から原則全額控除されます。控除される金額には一定の上限がありますが、その範囲内の寄付であれば自己負担額は2,000円のみで、自治体によっては寄付のお礼として特産品を受け取れるメリットがあります。
所得税・住民税から控除される金額の上限は、給与収入や家族構成などに応じて決まるため、確認のうえでふるさと納税をしましょう。
上限額の目安や、控除額の計算方法は、総務省のふるさと納税のページに掲載されています。
ワンストップ特例制度の適用で手続きが簡便に
確定申告の不要な給与所得者が、1年間に5つまでの自治体へふるさと納税を行う場合には、「ふるさと納税ワンストップ特例制度」(以下、ワンストップ特例制度)を利用できます。これは、確定申告をしなくても税金の控除が受けられるという、便利な制度です。
6つ以上の自治体へ寄付をする場合やもともと確定申告が必要な人は、確定申告をしないと控除を受けることができません。
同じ自治体へ複数回寄付しても、1自治体としてカウントします。例えば、1年間に自治体Aへ4回、自治体Bへ2回寄付を行う場合もワンストップ特例制度適用の対象です。
ワンストップ特例制度を利用すると所得税からは控除されず、ふるさと納税をした翌年度分の住民税のみから控除されます。
自治体への申請書の提出は必要ですが、ワンストップ特例制度を利用すると、ふるさと納税の控除手続きはとても簡単です。ふるさと納税についてあまり知識のない人も、身構えることなく安心して利用してみてください。
受入額は毎年増えている
ふるさと納税の受入額は、年々増加しています。
2020年度の受入額は、全国の自治体の合計で約6,725億円と、前年度の約1.4倍を記録。1年間にふるさと納税を利用して控除を受けた人は、約552万人にものぼりました。
2015年に、全額控除されるふるさと納税枠がそれまでの約2倍になり、条件を満たす場合に確定申告を不要とするワンストップ特例制度が創設されました。
これをきっかけに、ふるさと納税の利用は急速に拡大し始めます。しかし、返礼品の内容や寄付金額に偏りが生じる傾向が見られたため、2019年6月からは、ふるさと納税の返礼品の返礼割合を3割以下とする新制度が開始されました。
この影響で、2019年度の受入額は2018年度の受入額をやや下回りましたが、2020年度の受入額は大きく伸びて過去最高となりました。背景には、魅力的な返礼品への注目や、地域を応援したいという機運の高まりがあると考えられます。
ふるさと納税の目的は3つある
ふるさと納税というと、「返礼品がもらえるお得な制度」というイメージをもっている人もいると思いますが、本来の目的や趣旨に目を向けてみましょう。
ふるさと納税制度の主要な目的は以下の3つです。
それぞれについて、具体的に説明します。
税金の使われ方を考えるきっかけになる
ふるさと納税は、私たちが税金の使われ方や納税の必要性について、主体的に考えるきっかけになります。
私たちが国や自治体へ納めた税金は、公共サービスや公共施設運営などに使われます。
具体的には、医療や年金、警察、学校教育、道路整備など、私たちの日々の生活に必要な事業を税金が支えているのです。
もし納税をしなければ、このような事業に使える資金が減少し、結果的に自分が受けるサービスや生活の質の低下につながる可能性があります。
寄付を行う自治体や寄付金の使い道を自分で選択できるのは、ふるさと納税の画期的な特徴です。
特に活用してもらいたい事業があれば、そこを選んでみてもよいでしょう。
応援したい地域をサポートできる
ふるさと納税をする地域は自分の意思で選択できます。
生まれ育った故郷など、お世話になった地域・思い入れのある地域へ貢献したいと考える人は少なくありません。
また、特別な縁のない地域であってもふるさと納税ができます。
例えば、「自然災害で被害を受けた地域の力になりたい」「旅行で行った思い出の地域の発展に貢献したい」といった思いをふるさと納税によって実現できます。
ふるさと納税は、寄付する側が寄付金額や寄付金の使い道も選択したうえで、応援したい地域をサポートできる魅力的な制度です。複数の自治体へふるさと納税をしても問題ありません。
ただし、「現在自分が住んでいる地域へふるさと納税をしたい」場合には注意が必要です。
住民票登録のある都道府県や、その都道府県内の市町村へ寄付をすることは可能です。しかし、総務省は、居住者へは返礼品を提供しないというルールを定めています。
居住している都道府県や都道府県内の市町村にふるさと納税をすると、住民票登録のある市町村にもともと納めるはずであった税金の控除により、住民登録のある市町村の税収は減少してしまいます。
そのような状況は、地域全体の利益にはなりません。ふるさと納税制度の趣旨にそぐわないため、住んでいる自治体へのふるさと納税は推奨されていないのです。また、そもそも居住者からのふるさと納税を受け付けていない自治体も存在します。
地域のあり方をあらためて考える機会にも
ふるさと納税制度があることで、自治体が地域のあり方をあらためて見つめ直す機会が生まれています。
自治体は、ふるさと納税をしてもらうために、特産物などの返礼品やふるさと納税の寄付金を使って行う取り組みを外部へアピールします。選ばれる魅力的な地域であろうと努力する自治体の間には、競争が生まれ、さらなる地域活性化が促進されるでしょう。
人口や経済活動が大都市圏に集中する一方、地方は、過疎化や産業の衰退、高齢化などの問題を抱えています。
しかし、地域の魅力を再発見してアピールする取り組みの結果、特産品や独自の政策などが注目を集めることもあります。産業が発展したり移住者が増加したりと、ふるさと納税を通して地域おこしに成功したケースは数多くあるのです。
ふるさと納税で集まったお金の使い道は?
ふるさと納税をするなら、寄付金の使い道を知り、その意義を理解したうえで寄付をしたいところです。
自治体に集まったふるさと納税の寄付金は、税金と同様に自治体の事業に使われますが、自治体によっては寄付者が使い道を指定できる点など税金とは異なる特徴もあります。
自治体によっては、地域の自慢になるような事業や、人々の共感を集めるような事業にふるさと納税の寄付金を使用しているところもあるのです。
自治体のさまざまな事業に使われる
ふるさと納税で集まった寄付金の使い道は自治体ごとに異なり、さまざまな事業の資金となります。
寄付金の使い道は、自治体の特色が反映されるために非常に多様ですが、例として以下のことに使われています。
- 教育・子育て支援
- 医療や福祉サービスの強化
- 自然環境の保護活動
- 産業・文化・観光の振興
- 防災・防犯対策の強化
- 地震や台風などで被害を受けた地域の復興
各自治体の寄付金の使い道は、自治体のホームページやふるさと納税のポータルサイトで確認できます。使い道をしっかり選んで寄付をしたい方は、ぜひチェックしてみてください。
「使い道はお任せ」ができる自治体もある
自治体によっては、ふるさと納税の寄付金の使い道を「お任せ」として寄付できる場合があります。
例えば福岡県福智町では、3種類ある使い道のうちいずれかを指定するか、「町長に一任」とするかを選択できます。ふるさと納税をしたい自治体が決まっていて使い道にこだわらない場合や、1つの使い道に絞れない場合には、「お任せ」を選択してもよいでしょう。
また、中には「お任せ」にしかできない、つまり具体的な使い道までは指定できない自治体もあります。その例が北海道中川町です。中川町は、ふるさと納税の寄付金を「愛されつづけるふるさとづくり」に関わる事業に活用するとしています。
そのほかに、「記述式」で使い道が選べる自治体も存在します。三重県紀宝町では、4種類の具体的な使い道に加え、「使い道を指定しない」「その他」の合計6つの選択肢を設置。「その他」を選択した場合、納税者が望む施策を記入してもらうとしています。
ふるさと納税をする自治体の選び方
ふるさと納税では、特産品の食べ物などの返礼品が注目されやすいかもしれません。
しかし、ふるさと納税をする人は、返礼品以外にもさまざまな基準で寄付先を選んでいます。
例えば、以下のような選び方ができるでしょう。
各自治体が行っているふるさと納税制度の詳細を確認したうえで、寄付をしたいと思う場所を選びましょう。
使い道に賛同できる自治体を選ぶ
寄付金が使われる事業に賛同できる自治体へふるさと納税をすると、その事業の役に立てることに喜びを感じられるでしょう。
この場合の使い道としては災害支援が代表的ですが、返礼品の提供がなくても、使い道に賛同した人々から多額の寄付金が集まるケースがあります。
ふるさと納税のポータルサイトでは、使い道から寄付先の自治体を検索できるようになっています。各自治体の取り組みが詳細に掲載されているので、応援したいと思う自治体を見つけてみてください。
なじみ・思い入れのある自治体を選ぶ
ふるさと納税は、それぞれの人にとって「特別な地域」とつながり、感謝や応援の気持ちを伝えられる制度です。
自分が住んでいた自治体以外にも、家族の故郷や親戚が住んでいる自治体、観光で訪れた思い出のある自治体など、寄付先は自由に選べます。なじみや思い入れのある自治体へふるさと納税をする人も、多くいます。
力になりたい地域がいくつか思い浮かぶ人は、複数の自治体へのふるさと納税も可能です。ただし、確定申告をしなくても控除が受けられる「ワンストップ特例制度」を利用したい場合は、1年間に自治体は5つまでと規定がありますので注意しましょう。
ふるさと納税をする自治体が決まったら、使い道・寄付金額・返礼品なども選択して、寄付を行うことになります。
魅力的な返礼品がもらえる自治体を選ぶ
もちろん、魅力的な返礼品がもらえる自治体を選んで、ふるさと納税をしてもよいでしょう。
寄付のお礼として、地域で生産される特産物がもらえることは、寄付する側にとってうれしいポイントです。
自治体にとっても、返礼品は良い効果をもたらすものです。返礼品とする特産品の認知度が高まり、売り上げが増加することもあります。返礼品をきっかけに地域そのものにも関心をもってもらえるかもしれません。
また、返礼品は物に限定されず地域の魅力である、自然や文化の体験などを選べる自治体もあります。一般的には寄付金額が大きいほど、豪華な返礼品を選べるようになっています。
返礼品が「物」である例
- オホーツク海でとれたホタテ(北海道紋別市)
- 新鮮なシャインマスカット(山梨県甲斐市)
- 地域の伝統工芸品である南部鉄器(岩手県奥州市)
返礼品が「サービス」である例
- 名人が教えてくれる手打ちそば教室(富山県富山市)
- ジュースのお土産が付くりんごの収穫体験(長野県中川村)
- 農家に宿泊して行う農業体験(岡山県勝央町)
- 地域に住んでいる親への親孝行代行サービス(福岡県苅田町)
ふるセレでは、ジャンルやキーワードなどから返礼品を検索できます。ぜひチェックしてみてください。
ふるさと納税の好事例を目的別に紹介
ふるさと納税の目的を果たしている、以下5つの自治体の好事例をピックアップして紹介します。
- 【福岡県福岡市】
命を守る消防・救急体制の強化にふるさと納税を活用している事例 - 【岡山県笠岡市】
地域に生息する絶滅危惧種のカブトガニを守る活動にふるさと納税を活用している事例 - 【北海道上士幌町】
地域の魅力として子育て支援を充実させることにふるさと納税を活用している事例 - 【徳島県】
放浪犬を災害救助犬へ育成し殺処分を減らすことにふるさと納税を活用している事例 - 【東京都文京区】
子どものいる生活困窮家庭への食品提供にふるさと納税を活用している事例
ふるさと納税の寄付金がどのように使われ、どういった成果を上げているか、ふるさと納税の意義を理解したうえで、ぜひ寄付を検討してみてください。
自慢の消防・救急体制を構築「福岡県福岡市」
福岡県福岡市は、消防・救急体制を充実させるために、ふるさと納税の寄付金を活用しています。
福岡市では、「救急車の出動から病院搬送までの時間を短縮し、全国に誇れる消防・救急体制の構築を目指す」として、2015年に「福岡市消防救急基金」が設置されました。制度開始から2021年度までに集められた寄付金の総額は、約5,400万円にのぼります。
具体的には、消防車・救急車の整備や医療機器の購入などに寄付金が使われています。2016年の熊本地震や、2017年の九州北部豪雨では、被災地への支援活動も行いました。
命を守るための取り組みは共感を集め、全国から多くの支援と感謝の言葉が寄せられました。このことは、職員のモチベーションアップにもつながっているといいます。
絶滅危惧種の生態系保全に尽力「岡山県笠岡市」
岡山県笠岡市には、「生きた化石」と呼ばれる希少なカブトガニが生息しており、天然記念物に指定されている繁殖地があります。
カブトガニはもともと多く日本に生息していましたが、現在では個体数が激減してしまっています。そこで笠岡市は、ふるさと納税の寄付金を活用し、その生態系をなんとかして守ろうと尽力しているのです。
笠岡市へふるさと納税をする場合の使い道は数種類から選択できますが、その1つがカブトガニに関する事業となっています。
カブトガニの飼育・放流などの保全活動や、啓発活動、世界で唯一のカブトガニをテーマとした博物館の維持管理や利便性向上に、ふるさと納税の寄付金が使われており、2020年度には、2,600万円の寄付金が活用されました。
納税者は、ふるさと納税を通して、笠岡市が誇るカブトガニと豊かな海を守ることに貢献できるのです。
子育て支援の充実で人口増「北海道上士幌町」
北海道上士幌町(かみしほろちょう)は、子育て支援や少子化対策にふるさと納税の寄付金を重点活用しています。
町が運営する認定こども園に関しては、保育料を2016年度から10年間完全無料に。さらに、外国人講師による英語教育を行うなど、教育の充実にふるさと納税の寄付金が使われています。
高校生世代までの医療費を無料としていることや子育て世代への住宅購入費用の助成を行っていることなども、子どもをもつ家庭にとって魅力になっています。
こうした、ふるさと納税を活用した取り組みの結果、上士幌町では半世紀以上減り続けていた人口を回復させることに成功しました。
また、上士幌町では、ふるさと納税の寄付者との、継続的な関係づくりに取り組んでいる点も特徴的です。
移住を検討している寄付者向けに、上士幌町へ招待し生活を体験してもらうツアーを開催しています。移住した住民からも、「上士幌町は安心して子育てができる環境である」と評価する声が上がっているのです。
放浪犬を災害救助犬へと育成「徳島県」
徳島県は、ふるさと納税の寄付金を使い、動物愛護管理センターに収容される犬を災害救助犬やセラピー犬へ育成する取り組みを行っています。
災害救助犬は、地震や土砂崩れなどの災害時に現場に出動し人命救助などを行います。一方、セラピー犬は、病院、高齢者施設、被災地の避難所などで人々の心のケアをする犬です。
動物愛護管理センターに収容される犬は、野良犬や飼い主がわからない犬であり、引き取り手がいなければいずれ殺処分されてしまいます。そうした犬たちを災害救助犬やセラピー犬へ育成する取り組みは、犬の殺処分を減らすことにもつながり、動物愛護に関心をもつ多くの人々の共感を集めました。
災害救助犬になるまでの道のりは、簡単ではありません。地道な訓練期間は長期にわたり、災害救助犬の育成やアフターフォローには多額の費用がかかります。ふるさと納税制度によって全国からの支援を得ることで、この取り組みを続けていけるのです。
県はセラピー犬の幼稚園や学校などへの訪問を通じて、子どもたちに命の大切さを伝える活動も行っています。徳島県は犬や猫の譲渡も推進し、さらなる殺処分の減少を目指しています。
貧困家庭の子どもを宅食で支援「東京都文京区」
東京都文京区は、生活困窮家庭の子どもへ食品を届ける「子ども宅食プロジェクト」を、NPO団体などとともに運営しています。
ふるさと納税を活用したこの取り組みが2017年に開始されると、返礼品の提供がないにもかかわらず、賛同した人々から多くの寄付が寄せられました。返礼品の調達に費用が発生しない分、寄付金を最大限子どもへの支援に活用できます。
宅食の利用は年々拡大を続けており、2021年度には771世帯からの申し込みがありました。
また、文京区と協定を結んでいる島根県津和野町では、地元産のお米を「子ども宅食プロジェクト」のために文京区へ提供しています。ここにも、ふるさと納税の寄付金が使われているのです。
都市で暮らす生活困窮家庭の子どもへの支援と同時に、地元の農家を応援し外部から関心をもってもらうことにふるさと納税を活用している事例です。
目的を知って有意義なふるさと納税をしよう
ふるさと納税には、寄付をする側と自治体の双方が、税金の使い道や地域づくりについて考えるという大切な目的があります。
ふるさと納税の目的を理解することで、納得のいく寄付先・寄付方法の選択ができ、有意義なふるさと納税ができるようになるでしょう。
ふるさと納税をする自治体を探す過程で、さまざまな自治体の取り組みや努力を知ることになります。
結果的に寄付先として選択しなかったとしても、今まであまり知らなかった地域の魅力を再発見できることでしょう。
ふるセレでは、複数のふるさと納税サイトを比較しながら、寄付先の自治体を選べます。ふるさと納税を検討している人は、ぜひ、ふるセレのページで検索から始めてみてください。